PSPgoを小売店が警戒する理由

6月2日からアメリカはロスアンゼルスでE3(世界最大のゲームの祭典)が行われていたわけですが、そこでソニー・コンピュータエンタテインメントから新しいゲームハードが発表されました。その名もPSPgo。

このPSPgoはUMDを廃止して16GBのフラッシュメモリを内蔵したということで大きな話題を集めています。PSPgoについては、ゲームハードというよりiPodを意識したマルチメディア端末としての立ち位置を目指しているんじゃないかなあ、とか、むしろMedia Goを従来のPSPで使うとよさげかも、とか、考えることは色々あるんですが、今回はこのハードに大きく反発しているゲーム販売店と、オンライン販売についてのお話です。

 

 

PSPgo発表に販売店はガッカリ

PSPgoが発表されて、怒り心頭のブログを発信したのは知っている人は知っている、ゲームズマーヤの有名店長さんです。

『ダウンロード専用機「PSPgo」だなんて、
私達流通「お店」はもういらないって事?必要とされていないの?』

**店長からのメッセージ**  ガックリ!」より引用

 

お店がいらないとは穏やかではありませんが、実際にそういった危機感を感じているゲームショップ経営者は少なくないかもしれません。ちなみにこの、ゲームズマーヤの店長さん。以前たまたまお会いしてお話する機会がありましたが、ゲームのオンライン関連サービスについても、とても詳しく、お店としてどういう 取り組みをしていくかということを真剣に考えられている方でした。だからこそ、お怒りになるのかもしれません。

 

ゲームの流通や販売に関わる人間に波紋を呼んでいるPSPgoの問題、もうちょっと噛み砕いて、ゲーム販売の現状とあわせて考えてみたいと思います。


小売店の中古ビジネス

この話をするにあたって、オンライン云々の前に先に説明しておかなければいけないのが、ゲーム販売店の中古ビジネスです。ゲームの小売店の構造は、売上げ は新作ゲームの方がたちますが、利益は中古が上回るという不思議な構造を持っています。これは、新作ソフトの利幅が極端に少ない一方で、お客さんから買い取ったソフトを自分で値づけをして商売することができる中古ソフトの利幅が大きいことがその理由に挙げられます。

当然ソフトやお店によって変わりますが、大雑把に言って、新作ソフトの場合5本仕入れて1本売れ残れば利益が吹き飛ぶ、というイメージです。どの店でも普通に行っている値下げを考慮すればもっと厳しい数字になるでしょう。しかし、新品を売ることによって、新品を買ったお客さんが遊び終わった後に中古を売り にくる、そのお客さんはゲームを売ったお金でまた中古ソフトを購入する。そうやって中古の市場を作りだし、利幅の大きい中古市場で利益を回収していくと いうのがゲーム販売店のビジネスモデルになっています。


オンライン販売によって中古市場が崩れる可能性

PSPのマーケットというのは、ゲーム販売店にとってとても大切な市場です。なにしろ、中古の回転がいいですから。さっきも説明した通り、新品が売れる以 上に、お客さんが中古を売ったり買ったりしてソフトがグルグルグルグル回れば回るほど小売店は儲かる仕組みにあります。中高生、あるいは大学生達が、限られたお小遣いの中で、中古ソフトの売り買いを繰り返してやりくりしてくれるのは、お店にとってとても重要なわけです。

もうお分かりだと思いますが、ダウンロード販売の場合、この中古市場が全く回転しなくなります。本体にダウンロードされたデータは売り買いできないからですね。お店の人たちが最も危惧するのはこの部分です。例えば、中古の価格帯にあわせて、それを少しずつ下回るようにダウンロード版の価格を下げていく、なんてことをされれば大打撃になり得るわけです。


プレイステーションネットワークカードは商売にならない?

この問題にさらに拍車をかけるのは、プレイステーションネットワークカードです。PSPやPLAYSTATION3をPlaystationStoreに 接続してゲームコンテンツなどを購入する際に使うプリペイドカードです。オンラインでゲームを買う場合は、クレジットカードを使うか、お店などで1回現金 をプリペイドカードに買えて使うというのが一般的です。

 

ユーザーがオンラインでソフトを購入するようになった場合、流通、販売が噛めるのはこのプリペイドカードの販売ということになります。ただし、現状 ではこのプレイステーションネットワークカード、お店が売っても数%の手数料が入るのみで、とてもこれを軸に商売を考えることはできません。

つまり、もしも、PSPgoによってオンラインによるゲームソフト販売が主流になるようなことがあるとすれば、利幅の大きい中古市場が減少し、商売になら ないプリペイドカードを売るしかない、そしてそれは現実的にお店を維持することができなくなる、という危惧に繋がるわけです。


ゲーム販売のあり方について考える時期

 

ここまで、ゲームを売るお店の危機が迫っているかのようなお話をしてきましたが、実際のところ、PSPgoが一気に普及し、それに伴ってオンライン販売が 主流になる、というのは、SCEがよほどの奇策でも用意していない限りはちょっと難しいでしょう。ユーザーにオンライン接続に接続してもらって、そこで課金コンテンツをダウンロードしてもらうというのは、思いのほか大変な作業です。それは、一部のコアユーザーからたくさんのライトユーザーへ、ユーザー層を 拡大させようと思えば思うほど、大変になるはずです。特に日本ではそうでしょう。

しかし、いずれ、オンラインによるダウンロード販売の割合が次第に大きくなっていく、そういう予想は充分に可能です。ですから、すぐにゲーム販売店が危機に陥るということではありませんが、騒ぎ出すタイミングとしては、決して早くはありません。

ゲームのオンライン販売が進んでいった時に、ゲーム販売店の役割とはどこにあるのか。ゲームメーカーやユーザーに、どんな価値を提供して存在していくのか、試行錯誤を始めなければいけない時期にあるように思います。

 

 

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