【PR】問題 広告業界がかき集めるヘイトの行方

僕はライターではあるんですが、あまり広告記事の依頼は多くいただいていません。(いただけるならやりますよ! AllAboutにお問合せくださいませ。)そういう意味で直接的にはあまり関係が無いんですが、それでも、最近インターネットで話題になっている、広告記事に【PR】をつけるべきじゃないか、という論争にはとても興味をひかれます。

【関連記事】
記事タイトルに「PR」って入れるかどうか問題について(ヨッピーのブログ)
「おもしろい広告」ってどうやって作るの?人気ライターのヨッピーさんに聞く(BuzzFeed)

くわしくは上記リンクを読んでいただくのが早いと思いますがヨッピーさんという人気のライターさんが、優良誤認を防ぐために記事の冒頭には、PR記事であることを書くけど、タイトな文字数で工夫しているタイトルの冒頭にまで【PR】と入れるのは嫌だ、と書いたところ、【PR】と入れるべきかそうでないか、という論争になっています。

僕は少なくともヨッピーさんのように、記事の冒頭でPRであることを説明しているようなライターさんに、タイトルにも【PR】と入れろ、と要求してもあまり意味が無いと思いますし、インターネットと広告の関係をよりよくユーザーに快適なものにしたいということであれば、議論するポイントはそこではないだろうと思います。


ヨッピーさんの本音

ヨッピーさんは上記の「おもしろい広告」ってどうやって作るの?人気ライターのヨッピーさんに聞く(BuzzFeed)の中で

僕からすると、記事のタイトルって一番悩むところで、限られた文字数しかない中でパツパツに考えて決めてるのに、そこに【PR】とか入れてタイトル文の情報量が削られるのは嫌だなと思うんです。

と言っています。これがわりと批判を浴びていて、「タイトル文字数なんて言ってるけど、本当はPVが下がるのが嫌なんだろう」というような意見が多く出ています。もちろんヨッピーさんの本音がどうかなんていうことは分かりようもないのですが、おそらく実際のところ、ヨッピーさんぐらいの人気と実力のあるライターさんであれば、タイトルに【PR】を入れたところで、仕事に支障が出る程の大打撃は受けないんじゃないかと思います。

上記の記事でも追記にて

思ったより「タイトルに入れろ派」の人が多いので入れる方向でやろうかなと思います。

として、自分の裁量で入れられるものには入れると宣言しています。


踏みたくない記事には【PR】が入らない

これで今後ヨッピーさんの広告記事のタイトルには【PR】が入ると思いますが、これって多くの人が望んでいる解決に向かっているのでしょうか。僕はそうは思いません。ヨッピーさんが記事に【PR】と入れるのは、それでも読まれるという自信があるからですし、ヨッピーさんの記事がマジメに手間暇をかけて作られているからでしょう。

一方で、多くの人が【PR】によって回避したい記事はなんでしょうか? ヨッピーさんの記事も読みたくない人はいるとは思いますが、本当に回避したいのは、タイトルどころか記事中の目立つ所にも【PR】なんて入れないで、できるだけ広告記事だとは気づかせないように読者を騙してPVを稼ごうとしているだけの、中身のない記事じゃないでしょうか?

しかし、彼らは決して【PR】とは入れないでしょう。要求している側は【PR】と入れたら最初からクリックしないと言ってるんです。騙してでもクリックさせようとしている業者が、入れるわけがありません。だって、騙そうとしてるんですから。

こうなると、マジメに作っている人や、自信のある一部の人の記事にだけ【PR】とついて、結局地雷みたいに踏みたくもない質の悪い記事を踏んでしまうのが不快だという点は全く解決されないことになります。


不毛な戦場

はなから読者を騙そうとしているような媒体じゃないとしても、やはり「【PR】と入れたら問答無用でクリックしないから【PR】と入れてくれ」という要望には相当抵抗があると思います。そもそも広告記事が目指すところは、商品に興味が無い人や、その商品を知らない人、接点が無い人に対して、面白い記事をフックにすることで商品との出会いを演出するというところにあるはずです。

であれば、やはり「クリックしないで済むために【PR】を入れてくれ」という要望はハードルが高いものです。僕が仕事で請け負ったとしても、クライアントに「タイトルの冒頭に【PR】と入れましょう」は言わないと思います。興味を持ってなかった人でも面白さで引き込んで、商品への興味に繋げる記事を作りましょう、という方向の提案をするべきなのに、興味が無い人が最初から読まないで済むようにしましょう、という話はクライアントからすれば価値を感じません。

これを実際に多くのメディアが取り入れることを前提に考えるのであれば、入れる側にデメリットの大きい自主規制の類として議論するべきです。

とすれば気軽にできるわけもなく、例えば【PR】と入れない広告記事を展開するメディアや商品は相当に悪質である、という社会的な合意でもない限りは入らないでしょう。現状、記事そのものが広告であることを巧妙に隠すことは悪質であるし違法であると言えますが、記事タイトルの冒頭に【PR】がついていないことが悪質であると言えるかというと、かなり難しいんじゃないでしょうか。

逆に言うと、それでも【PR】と入れるべきと主張するなら、これがいかに悪質で、大きな被害があり、誰かの権利や利益をある程度制限してでも規制されるべき事柄である、というのを説明できないと、成果は得られないでしょう。

僕はとにかく、ここで戦うのはものすごく大変で、結果も手に入りにくく、建設的じゃないと思っています。そしてみんなが消耗している間に、悪質な業者はどこ吹く風でなんのダメージもないんじゃないかと思うわけです。


諸悪の根源はPVの評価にある

【PR】の話を読む前に、こちらの記事も読みました。

【関連記事】
オーケー、認めよう。広告はもはや「嫌われもの」なのだ — LINE 田端信太郎(AdverTimes)

インターネットの世界において、広告は間違いなく嫌われ者だと思います。なんで嫌われているか、それはユーザーのインターネット体験を阻害する形で展開しているからでしょう。その最たるものが、スクロールにあわせて上から下に現れるポップアップ広告じゃないでしょうか。

もともとユーザがやろうとしていた行為を邪魔して、誤クリックに誘導しているわけで、嫌われて当然です。なんでこういうことが横行するかと言えば、このウンコみたいな誤クリックにお金を払う広告主がいるからでしょう。どんなウンコなクリックでも1PVは1PVという評価をしている限り、こういった行為は止まらないでしょうし、それこそ本当に悪質だと追及されて規制でもされるまで続くんじゃないでしょうか。インターネットが普及して、広告に対するアクセスが確実にカウントできるようになって、広告は確実におかしくなったと思います。アクセスが集まった結果どうなったかが重要であるはずなのに、分かりやすい数字が安易に評価されすぎて、目的と手段が逆転しています。

【PR】の話も本質はおんなじで、とにかくPVさえ取れれば、あとは読まれようがすぐ閉じられようがどうでもいい、という考え方で、興味をひくタイトルだけがあって、中身が無い記事はとても嫌われるでしょう。これが、きちんと読まれて、商品の購入や認知、イメージアップに繋がっているか、というところまで評価されるのであれば、読者を極端に騙す手口は意味を失います。

この点に関して広告業者は、読者だけでなく、広告主も騙していて、ウンコなクリック売りつけていることになります。広告業者に騙されずに、かけたコストの分だけ成果を上げたいと考えれば、広告主にもメリットがある話で、これはクリックしないから【PR】を入れてくれ、というよりはよほど建設的に議論ができるんじゃないでしょうか。

とにかく広告は一切見たくないから俺の目の前から消えてくれ、という主張を持つ人にとってはこれでは意味がないかもしれませんが、その人と広告業界が相容れることはないでしょう。そういう方には、対価を直接支払えるコンテンツの利用をオススメします。そういう人が増えるなら、それはそれでいいことのような気もします。

一方で、広告にかけるコストをもっと有効に使おう、という話であれば聞く耳を持つ広告主は少なくないでしょうし、そこで意欲を持ってビジネスをしようという広告業界の人もいるんじゃないかと思います。少なくとも、良くしようと思っている人同士が意味もなく争うような構図にはならないでしょう。


広告業界がかき集めているヘイトの発生源は?

広告業界全体から見ると、ヨッピーさんはむしろ相当がんばってまともにやっている方で、その人が自分の思っている通りに話をしたら、猛烈な勢いで批判が集まっていて、これは広告業界がためまくったヘイトが分かりやすいところに行ってしまった形のように思います。

ヨッピーさんが、コマンド「挑発」でヘイトを引き受けて、その後方にいる実は仲間というわけでもない稼ぎ専門のパーティーを救っちゃう構図ってなんだかとっても不毛に思うわけです。そういう意味で言えば「挑発」使っちゃうヨッピーさんもどうかと思いますし、そこにつられてヘイトぶつけちゃうのもどうかと思う次第なのです。

インターネット上の広告手法には目に余るものがありますし、マジメにやってる人が隠れ蓑になるような展開ではなくて、悪質な業者がやりにくくなるような議論がきちんとできるといいなと思います。